「おはよう。根本さん。今日は根本先生と一緒じゃないの?」
碧と歩いていると、次々と掛けられる言葉に、源太は一抹の疑問を抱く。
さっき碧と一緒にいた彫りが深い端整な顔立ちの男は、碧と同じ根本という姓で、自分の転校先の教師である事はわかったが、碧と一緒にいる事が当然という感じは何だろうという疑問が源太に過る。
過ったが、碧と一緒に歩ける嬉しさの方が勝り、疑問を打ち消していく。
「雅彦先生は?碧ちゃん」
「先に行ったわ…」
次々と浴びせられる根本雅彦はどうしたのかという疑問に、碧は、雅彦なら先に行ったと答え続ける。
「あのさ…さっきの人…」
次々と碧に浴びせられる根本雅彦はどうしたという疑問に、碧との関係を知りたくなった源太は、碧にさっき一緒に居た根本雅彦との関係を訊ねる。
「根本雅彦先生…生物の先生で…私の遠縁の人…」
源太の疑問に、碧は、雅彦は生物の教師で、自分の遠縁にあたる人間だと答える。
実は、碧と雅彦は遠縁でも何でもないのだが、碧は、源太に雅彦との関係を知られるのが怖かった。
冷たく耳打ちされた言葉を思い返せば返すほど、碧は、源太に、自分が雅彦にされている事を知られたくなかった。
知られたくはなかったが、源太を見ていると、希望というものが湧き上がってくるのを感じていた。
絶望の塊から救ってくれるのではないかという希望が湧き上がってくるのを碧は感じていた。
彼なら…そんな僅かな希望を碧は、源太に感じていた。