「碧さん…何か…悩んでない…?」
「えっ…?どうして…?」
碧が見せる陰がある表情が気になった源太は、思い切って何か悩んでいないかと訊ね、訊ねられた碧は、どうしてそう思うのかと問い返す。
「なんか…気になっただけ…何もないなら…いいんだ…」
碧の問い返しに、何か触れてはいけない事に触れた気がした源太は、少し気になっただけで、何もなければいいのだと呟く。
「清々しい人ね…見ていると…こっちがみじめになるくらいだわ…」
源太の呟きに、自分にはない清々しさを見た碧は、源太は自分をみじめにさせるくらいに清々しいと呟く。
「気に障ったなら…謝るよ…」
「ううん…いいの…気付いているのでしょう…?私と根本先生がただの遠縁じゃないって…」
気に障った事を言ったのなら謝ると呟いた源太に、碧は、首を横に振りながら、本当は自分と雅彦がただの遠縁の関係ではないと気付いているのだろうと呟き返す。
「あの家の…主って…」
「そうよ…私と根本先生…」
自分が迷い込んだ邸宅に住んでいるのは碧なのかと訊ねる源太に、碧はそうだと答え、続けて根本先生つまり雅彦と住んでいるのだと呟く。
「じゃあ…あの時…聞いた声って…」
「私よ…」
あの時聞いた艶やかな声の主は碧なのかと訊ねる源太に、碧は否定することなく、紛れもなく自分だと答える。
だから…助けてと呟いたが、その呟きは源太にはまだ届かなかった。