「ねぇ…母さん…この町で一番古い人って誰…?」
家に帰った源太は、母の明子に、この町で一番古い人間は誰かと訊ねる。
「そうねぇ…三丁目のトメさんっていうおばあさんかしら…?」
源太の問いに、明子は、一瞬考えた後、三丁目に住むトメという老婆が一番古いのではないかと答える。
「三丁目に住む…トメさん…か…」
明子の答えを反芻した源太は、明日にでもそのトメを訪ねて、真実を聞き出そうと決意する。
トメが語るという保証はどこにもないが、源太はなぜかそのトメという老婆なら、真実を語ってくれるような気がしてならなかった。
「(碧さん…僕は…何を知っても…怯まない…)」
源太は、もし、トメという老婆が碧のどんな秘密を語ろうと、絶対に怯まないと固く決意する。
翌日…トメの元を訪れた源太は、最初は口を噤んでいたトメを説き伏せ、碧の秘密を聞き出す。
しかし、その秘密は、恋を知りたての源太には受け止められない程に重く、源太にのしかかる。
それは、十七年前に起きた悲劇から始まり、その悲劇によって生まれたのが、他でもない碧で、親族から悲劇の子と恐れられた碧は、売り渡されるように根本雅彦と暮らし始め、碧が十六になったのを待って、雅彦と正式に婚姻を結んだと聞かされた。
そう…碧と雅彦は、遠縁でも何でもなくて、戸籍上は夫婦だという事を源太は知った。
それを知ったとて、源太の気持ちは変わらなかった。
もう一度、碧の希望になる。雅彦との関係から救い出すほどの力はまだないが、碧の希望になるだけに力はあるはずだと、源太は自分を奮い立たせる。