白い闇ー20

この町に引っ越して来て初めての日曜日。


源太は、初めて碧と出会った滝へと足を運んでいた。


幻を見たかのように美しかった碧…儚げで触れる事もできない程に美しかった碧…もう一度この滝で会えたならと思って来たけれど、滝に碧の姿はなく、源太は嘆息を吐く。


「須本…君…?」


「根本…さん…?」


 源太がかつて見た碧の姿に思いを馳せていると、背中から碧の声が聞こえ、驚いた源太は、幻でない事を祈りつつ、声のした方へと振り返る。


「あの…根本先生は…一緒じゃないの…?」


「えぇ…いつも一緒というわけじゃないわ…」


 雅彦と一緒じゃないかという疑問が浮かんだ源太は、率直に疑問をぶつけ、疑問をぶつけられた碧は、いつも雅彦と行動を共にしているわけではないと答える。


 しかし、その表情にはどこか陰りがあって、源太は、その陰りのある表情に魅入られる。


淡い恋心を覚えたばかりの源太と悦楽の地獄を味わい続ける碧とはまだ距離があった。


「もう一度…ここに来たら…君に会えそうな気がして…」


「そう…もう一度ね…」


 もう一度この滝に来れば、碧に会えそうな気がしてたと呟いた源太に、碧は、そうなのかと笑うと、滝壺の近くへと入っていく。


「服…濡れちゃうよ…?」


「いいの…ここに来る時は濡れてしまいたい気分の時だから…」


 服が濡れてもいいのかという源太の問いかけに、碧は、この滝に来る時は濡れたい気分だから構わないのだと答える。


 滝に打たれる碧の姿は、やはり、儚げで、触れるのが畏れ多くなるほどに美しく見えた。