白い闇ー25

 その夜の雅彦は、いつも以上に冷たく、しかし、どこか情熱を帯びていて、その反比例する雅彦の狂気に、碧は惑わされていくのを感じる。


 いつもと同じ光景のようで、どこか違う光景…碧は、雅彦の狂気に飲み込まれていく自分を感じずにはいられなかった。


なぜ…?いつものように許しを乞えない…?雅彦の冷たい視線をなぜ感じない…?


やはり…自分は…雅彦の人形でしかないのか…?


「碧…俺から逃げられると思うなよ…」


「わかって…ます…」


 いつも繰り返されるやり取りに、碧は、違和感を覚えながらも、雅彦に自分は雅彦の人形だと答える。


昼間に感じた希望が打ち砕かれる瞬間でもあるはずなのに、いつものように絶望を感じない…その感覚が、碧を狂わせ始めていた。


 希望があるからこそ絶望に耐えられるという事に気付かない碧は、雅彦の狂気にただ引きずり込まれていく自分を感じていた。


「碧…なぜ…今日は…許しを乞わない…?」


 いつものように泣きながら許しを乞わない碧に、違和感を覚えた雅彦は、なぜ今日はいつものように許しを乞う事をしないのだと訊ねる。


「許してと言って…許してくれた事が…ありますか…?」


 雅彦の問いに、碧は、いままで許しを乞い続けて許してくれた事あるのかと問い返す。


雅彦と暮らし始めて四年…何度許しを乞い続けてきた事か…だが、雅彦に許された事はなく、雅彦の狂気の赴くままに蹂躙されてきた。


碧は、絶望に満ちたこの家から出る事もできないまま、四年間…いや…この先ずっと…雅彦に蹂躙され続ける事を覚悟し始めていた。


希望と絶望の間で、碧は今夜も雅彦の狂気の赴くまま間に蹂躙され続ける。