「碧さん」
碧と滝で会おうと約束した次の日曜日…源太は碧の姿を見つけ、零れんばかりの笑顔を浮かべる。
「須本君…」
まだ汚れを知らない少年そのままの笑顔を浮かべる源太に、碧は、自分の汚れきった身体を清めたいとばかりに滝へと飛び込む。
「そんなに…滝に飛び込んだら…身体…冷えちゃうよ…?」
「いいの…もっと冷たい場所を…知っているから…」
源太の碧を気遣う言葉に、碧は、源太に聞こえるようにはっきりとこの滝よりも冷たい場所を知っているから大丈夫なのだと答える。
「それは…自分の家の事…?」
「どうして…?」
源太の核心を衝く問いかけに、碧は、どうしてそう思うのかと返す。
「僕だって…この一週間…何も知らないままじゃない…」
「いいのよ…その先は言わなくても…」
この一週間、自分だって碧の苦悩を知る努力をしてきたと言う源太に、碧は、知っているならそれ以上言う必要はないと返す。
「僕は…碧さんの…希望になりたい…碧さんの…心が…落ち着ける…存在になりたい…」
「須本君…」
源太の碧の希望になりたいという言葉を聞いた碧は、自分の中に渦巻く白い闇が少しだけ晴れていくのを感じる。
絶望だけに包まれていた日々…源太との出会いが何かを変えていく…碧の希望になりたいという源太の想いが、いまの碧には眩しくて見えない闇に見えた。