大奥恋絵巻ー13

 その後、毎夜のように家治はお妙を所望し、夜明け近くまでお妙を貪り続けた。


家治のお妙への執心ぶりに、大奥中がざわめきを隠せなかった。


お妙が家治の種を宿すのは時間の問題だと、大奥にひしめく女たちはみなそう思わずにはいられなかった。


 ある日、お妙がお付きとなったお美津を従えて、大奥の廊下を歩いていると、向こうから幼い男子を連れた女性がこちらに向かい歩いてきた。


それが、お妙が大奥に入るまで家治の寵愛を欲しいままにしていたお菊の方である事は、すぐにわかった。


「そなたが…お妙という娘か…」


 礼儀として道を開けたお妙の前で立ち止まったお菊の方は、お妙を値踏みするように上から下まで眺めつくす。


「上様も…趣味がいい…こんな垢抜けぬ娘にご執心とは…」


 お菊の方は、お妙が家治の執心を得てから、一切寝所に呼ばれなくなった苛立ちを隠すことなくお妙にぶつける。


「お菊様…」


 お妙は、苛立ちを隠すことなくぶつけてきたお菊の方に戸惑う。


戸惑うが、家治の執心を得ているのは事実なので、お菊の方の苛立ちをそのまま受け入れる。


「よいか…そなたが…お腹様になろうが…世継ぎは私が産んだこの子だということを忘れるな…」


「もちろんでございます…」


 お妙がいくら家治の執心を得ていようが、家治の種を宿そうが、世継ぎは自分が産んだ子であると主張するお菊の方に、お妙は、もちろんだと答え、お菊の方とその男子に敬意を表すように頭を下げる。


 その態度に益々苛立ったお菊の方はお妙をギリっとにらみつけた後その場を去っていく。