大奥恋絵巻-4

 家治が御台所付きの娘を所望した…その話は瞬く間に大奥内を駆け巡り、お菊の方の耳にも届いた。


「あの…公家さん…自分の代わりに寵愛を得られるかもしれない娘を…探していたのね…」


 将軍の世継ぎを生み、権勢を欲しいままにしていたお菊の方は、瑤子の思わぬ反撃に、自分の権勢を脅かされる恐怖に身を震わせる。


「もし…その娘が…上様の寵愛を得たりなどしたら…あの御台の天下になるやもしれない…」


 もし、お妙が家治の寵愛を得たら、大奥の権勢は間違いなく瑤子に傾く…お菊の方はそれを何よりも恐れていた。


 一方…お妙は、いきなり自分が置かれた立場に戸惑っていた…時の将軍に欲されるという意味がどういう意味になるのかわかっているからこそ、お妙は戸惑う。


「お妙…今宵のお相手は…そなたに決まったも同然…御台所としても嬉しい限りだ…」


 家治がお妙を所望した事により、瑤子は密かに立てていた計画がピタリとはまった事に喜びながら、お妙に向かい、将軍に所望されることは名誉な事なのだと笑いかける。


「お美津からも聞いておるであろう…わらわは…お菊に対抗できるような女子が欲しかったのだ…そなたなら…あのお菊に対抗できる…」


 お妙の戸惑いをよそに、瑤子は、お妙に、自分は以前からお菊から家治の寵愛を奪える娘を探していたのだ、お妙なら家治の寵愛を欲しいままにできる存在になりえると笑いかける。


「御台様…私には…」


「上さんに所望された以上…許婚がいるという返答は許されない…ここはそういう場所なのだから…」


 許婚がいるから家治には応えられないというお妙に、瑤子は、将軍である家治に所望された以上は、家治に応えるのが絶対で、許婚がいるという理由はもう通らないのだと諭す。


 その時、お妙は確信した…自分はこの大奥の実権争いの駒として家治に差し出されたと…