2015-01-27から1日間の記事一覧

禁区ー14

「あの…ありがとうございました…」 「いえいえ」 セックス依存症が知られてしまったと思いながらも、とりあえず助け舟を出してくれたことの礼を述べる晴美に、雪田は礼には及ばないとばかりに笑いかける。 「じゃあ…私…帰ります…」 「待ち合わせはいいの?」…

禁区ー13

『この人と行くべきなんだけど…でも…行きたくない…』 普段ならこのままかつて名乗った偽名を名乗って行きずりの恋を楽しんだこの男についていくのだが、雪田がそばにいるせいか、晴美はなぜかその男の方に足を向けることできずにいた。 「今日のめぐみちゃん…

禁区ー12

「じゃあ…私はこれで…」 思わぬ場所で雪田に会った気まずさに、晴美はこの場は立ち去った方が得策だと思い、その場を立ち去ろうとする。 「待ち合わせは?」 「ちょっとお手洗いに行くだけです」 待ち合わせ場所を離れていいのかという雪田の言葉に、またも…

禁区ー11

「ここ、夜の繁華街だよ?」 「そうですね」 「本当に待ち合わせ?」 「待ち合わせです」 核心を衝くような雪田の問いに、行きずりの恋の相手を探していたとは口が裂けても言えない晴美は、必死にただの待ち合わせだという嘘を繰り返す。 「そういう先生こそ…

禁区ー10

『先生にもまだ言っていないこと…まだあるしなぁ…』 雪田との初めての診察を終えた半年後、晴美は夜の繁華街に佇みながら、雪田にも言っていない秘密に思いを馳せていた。 晴美が夜の繁華街に居るのに大した理由などない。 そう…行きずりの恋の相手探し…やめ…

禁区ー9

ピンポーン 『あ、あたしだ』 診察の順番を告げる音に、掲示板を見た晴美は自分の順番が回って来たこと知り、看護師に案内された扉へと向かう。 その時、晴美は緊張と同時に興奮も覚えていた。 またあの精神科医に会える…そんな思いが晴美に緊張と興奮を覚え…

禁区ー8

『やっとたどり着いたぁ』 そのまた後日、雪田の勤務する病院を訪れた晴美の最初の感想はそれだった。 そこまで街外れではないし、自宅から近いですよと言われていたが、晴美はかなりの方向音痴で道に迷ったのだ。 何とか診察受付時間に間に合いはしたが、た…

禁区ー7

『雪田先生…っていうのか…』 再び保健所を訪れ、こころの相談を勧めてきた保健師に経緯を話し、あの髭面で恰幅のいい精神科医の勤務先と名前を教えてもらった晴美は、その髭面で恰幅のいい精神科医の雰囲気とは真逆の名前だなと思っていた。 『返答はどうな…

禁区ー6

『あの先生に会いたいな…』 自分を鼓舞する一方、ふと疲れを感じた晴美の脳裏に、保健所で出会ったあの精神科医の顔が過った。 この部屋も引っ越すし、仕事も変えるのだから主治医を変えるのも悪くないと考えていた。 しかし、どこの病院に勤務している何と…