白い闇ー21

「根本…さん…」


「碧で構わないわ…」


 滝に打たれる自分を他人行儀で呼ぶ源太に、碧は、碧と呼んでくれても構わないと答える。


「じゃあ…碧…さん…どうして…滝に打たれてるの…?」


「さっきも言ったじゃない…濡れたい気分だって…」


たどたどしく碧の名を呼びながら、どうして滝に打たれているのかと訊ねる源太に、碧は、さっきも言ったように濡れたい気分だから、滝に打たれているのだと答える。


「あなたも…来る…?」


「えっ…?いいの…?」


 何かを振り払うように滝に打たれていた碧に、一緒に滝に打たれてみないかと言われた源太は、驚いたように碧を見ながら、いいのかと問いかける。


「いいわよ…ここに来る人って…たぶん…あなたと私だけだから…」


 源太の問いかけに、碧は、この滝にやって来るのはたぶん自分と源太くらいなものだから、いいのだと笑いかける。


「じゃあ…お言葉に甘えて…」


 碧の言葉に魅入られるように、源太は碧のもとへと近付き、碧と共に滝に打たれ続ける。


季節は春…だが、雪解け水を含んだ滝の水は冷たくて、源太はいまにも凍り付きそうだった。


「この滝の水…冷たいでしょ…?」


「うん…碧さんは…冷たくないの…?」


 この滝の水は冷たいだろうと問いかけてきた碧に、源太は冷たいと頷いた後、碧は冷たいと感じないのかと問い返す。


源太の問い返しに、碧は、首を横に振りながら、小さくここよりも冷たい場所を知っていると呟いた。