「根本…さん…」
「碧で構わないわ…」
滝に打たれる自分を他人行儀で呼ぶ源太に、碧は、碧と呼んでくれても構わないと答える。
「じゃあ…碧…さん…どうして…滝に打たれてるの…?」
「さっきも言ったじゃない…濡れたい気分だって…」
たどたどしく碧の名を呼びながら、どうして滝に打たれているのかと訊ねる源太に、碧は、さっきも言ったように濡れたい気分だから、滝に打たれているのだと答える。
「あなたも…来る…?」
「えっ…?いいの…?」
何かを振り払うように滝に打たれていた碧に、一緒に滝に打たれてみないかと言われた源太は、驚いたように碧を見ながら、いいのかと問いかける。
「いいわよ…ここに来る人って…たぶん…あなたと私だけだから…」
源太の問いかけに、碧は、この滝にやって来るのはたぶん自分と源太くらいなものだから、いいのだと笑いかける。
「じゃあ…お言葉に甘えて…」
碧の言葉に魅入られるように、源太は碧のもとへと近付き、碧と共に滝に打たれ続ける。
季節は春…だが、雪解け水を含んだ滝の水は冷たくて、源太はいまにも凍り付きそうだった。
「この滝の水…冷たいでしょ…?」
「うん…碧さんは…冷たくないの…?」
この滝の水は冷たいだろうと問いかけてきた碧に、源太は冷たいと頷いた後、碧は冷たいと感じないのかと問い返す。
源太の問い返しに、碧は、首を横に振りながら、小さくここよりも冷たい場所を知っていると呟いた。