源太に手を取られた碧は、離れていく住み慣れた邸宅、そして町の風景が水墨画のように霞んでいくのを感じる。
「ねぇ…これって…駆け落ち…かしら…?」
「そう言う人もいるでしょうね…」
源太に救い出してもらえた喜びを隠すように、これは駆け落ちなのかと訊ねる碧に、源太は、そう名付ける人もいるだろうと答える。
「碧さん…本当の闘いは…ここからです…長年連れ添った人を…訴えるのですから…」
「訴える?私が?根本を?」
碧に、戸籍上だけでなく無理矢理夫婦生活を強いた相手を訴えるのは、生半可ではないと告げる源太に、碧は、自分が雅彦を訴えるのかと驚いたように源太を見る。
「そうです…僕は…この日のためだけに…弁護士になったと言ってもいい…」
驚きの表情で自分を見る碧に、源太は、法律で縛られているのなら、法律で闘うしかないと思ったから弁護士になったと言っても過言ではないと告げる。
「できるかしら…?」
「やるんです…大丈夫です…僕がついています…」
雅彦を訴えるなんて本当にできるのかと訊ねる碧に、源太は、やるしかないのだと答え、自分がついているから大丈夫だと声を掛ける。
「碧さん…いまは…正式な夫婦間でも強姦罪が成立する時代です…」
「強姦罪って…」
いまは、戸籍上でも正式な夫婦であっても強姦罪が成立する時代だと呟いた源太に、碧は、そんな大げさなものではないと答える。
「どこが…大げさなんですか…碧さんは…ずっと…苦しめられてきたじゃないですか…」