「(そうか…弓月さんって…結婚してたんだ…)」
弓月の左手の薬指に光る指輪を見た朱里は、なぜだかわからないが、弓月が妻帯者である事に愕然としていた。
弓月は一看護師で、自分は一患者。それなのに、弓月が妻帯者である事に愕然とする自分に、朱里は自分が弓月に何を求めているのかわからなくなった。
「須崎さん。まだ眠れないの?」
「え?あぁ…はい…」
弓月が妻帯者である事に愕然として眠れずにいた朱里に、夜の巡回に来た弓月は、朱里にまだ眠れないのかと声を掛け、声を掛けられた朱里は、弓月に驚き、まだ眠れないのだと答える。
「そっかぁ…でも、眠るのが須崎さんにとって何よりの治療なんだから早く寝るんだよ」
まだ眠れないのだと答えた朱里に、弓月は、そうかと呟き、しかし、眠るのが朱里にとって何よりの治療なのだから、早く眠るようにと声を掛ける。
「はい…わかってます…」
弓月に声を掛けられた朱里は、わかっていると答え、弓月が去っていくのを確かめた後、目を閉じる。
しかし、なぜか弓月が妻帯者である事実が頭を駆け巡ってなかなか眠れずにいた。
弓月は家庭ではどんな風に過ごしているのだろう…奥さんはどんな人で、そして何よりどんな風に奥さんを抱くのだろう…そんな事が朱里の脳裏を駆け巡る。
弓月のしなやかな指がどんな風に奥さんの身体を滑り、弓月の唇が奥さんの身体を滑るのだろう…そんな事ばかり朱里の朱里の脳裏を駆け巡り続ける。
なぜ、今夜はこんなに弓月の事が気になるのだろう…自分が弓月に恋心を抱き始めていると気付かない朱里は、自分の中に起きた変化に、ただ戸惑うばかりだった。
ここから朱里の境界性人格障害の症状が姿を現し始める。