朱里が入院し始めて一週間が過ぎ、弓月が夜勤の夜の事だった。
朱里はある女性患者が弓月に恋をしてしまったと告げているのを見てしまった。
朱里は、弓月の端整な顔立ちは認めていたが、一患者なのだから、一看護師に恋をするなんて考えられなかった。
「あの…弓月さん…こういう事って…あるのですか…?」
弓月に恋の告白をした女性患者が弓月にあしらわれ去ったあと、朱里は、弓月にこういう事がよくあるのかと訊ねる。
「う~ん…よくいるね…僕は淡々と仕事しているだけだけど…みんな寂しがり屋だから…疑似恋愛を求めてしまうんだよね…」
朱里に問われた弓月は、よく恋の告白をしてくる女性患者はいるけれど、それは寂しくて疑似恋愛を求めているだけだと朱里に答える。
「疑似恋愛…ですか…?」
「そう…なんか…みんな勘違いしちゃうんだよ。恋に恋をしてしまうって感じかな…?」
精神科病棟に入院していると疑似恋愛を求めてしまうのかと問う朱里に、弓月は、精神科病棟に入院している患者は、寂しさから自分の優しさを恋と勘違いしてしまうのだと笑う。
「そういえば、須崎さん。こんな真夜中にどうしたの?」
「いえ…ただ…寝付けなくて…」
なぜ、朱里がこんな真夜中に起きているのかと訊ねる弓月に、朱里は、ただ寝付けないだけだと答える。
「そうなんだ…眠れない時の薬飲む?」
「はい…」
ただ寝付けないだけだと答える朱里に、弓月は眠れない時のために処方されている薬を飲むかと訊ね、訊ねられた朱里は、はいと答える。
その時、朱里は見てしまった…弓月の左手の薬指に光る指輪を…。