翌日…弓月は夜勤に向かう道中、朱里の携帯を鳴らしてみる。
しかし、朱里からの返答はなく、今夜はまともに仕事できるかなとため息を吐く。
朱里が知らない男性に肌をさらし、淫らな行為に身を投じるのだと思うと、胸がなぜか締め付けられる。
「(やっぱり…俺は…須崎さんを…)」
自分の中で蠢き始めたドロドロとしたものに、弓月は気付き始め、朱里を特別視しているのではないかという思いに駆られてきた。
「(だめだ…仕事に集中しないと…)」
自分の中で蠢くドロドロしたものに弓月は、それらを振り払うように仕事に集中するのだと自分に言い聞かせる。
しかし、自分に言い聞かせても、脳裏をよぎるのは朱里の事で、弓月は仕事に集中できない。
朱里を知れば知るほど、朱里がわからなくなっていく。
順子は、朱里は自分を男性として意識している故に戸惑っているだけだと言っていたが、自分はどうなのだろうという疑問が弓月の脳裏を駆け巡る。
仮眠も十分に取れないほどに、自分は朱里をどう思っているのだろうという思いが弓月の脳裏を駆け巡る。
「(俺は…須崎さんを…好きになり始めているのか…?まさか…そんなわけ…ある…はず…ないよな…)」
弓月は、脳裏を過っては消える自分が朱里に何を求めていて、朱里が自分に何を求めているのかがわからないから、もしかしてという思いを打ち消し続ける。
「(須崎さん…いや…朱里…なぜ…俺を惑わせる…?俺の静かな生活になぜ波風を立たせる…?)」
朱里を求めるという愛しき罪を犯し始めた事に気付かない弓月は、なぜ朱里が自分を惑わせ、妻と子供とで築いた静かな生活に波風を立たせるのかと朱里に心の中で問いかける。