愛しき罪ー35

「(弓月さん…何をしているの…?そして…なんで私は…それを拒まないの…?)」


 弓月に口付けられた事に驚きながらも、朱里は、どうして弓月の身体を引き剥がそうとしない自分に戸惑う…。


弓月もまた朱里に口付けながら、自分の起こした行動に戸惑っていた。


「須崎さん…違う…朱里…」


「弓月さん…」


 初めて須崎さんではなく朱里と呼んだ弓月を見上げながら、朱里は、弓月の名を呼ぶ。


「弓月さん…いまなら…戻れるわ…あなたが築いた幸せな家庭の…静かな生活に…」


 弓月の行動に驚きながらも、朱里は、弓月に、いまなら己が築いた幸せな家庭と静かな生活に戻れると呟く。


「戻って…弓月さん…じゃないと…私は…あなたを…地獄へと落とすかもしれない…」


 自分を抱き寄せ続ける弓月に、朱里は、早くいままでの生活に戻って欲しいと呟き、続けてそうしないと自分の中のドロドロとした情念が弓月を地獄へと落としてしまうかもしれないと呟く。


「いまさら…戻れない…これが…地獄への入り口だとしても…戻れるはずがないじゃないか…」


朱里の叫びにも似た呟きに、弓月は、どうしていまさら戻れよう…これが地獄への入り口だとしても、戻れるはずがないじゃないかと呟き返す。


「弓月さん…だめ…戻らなきゃ…私の言う地獄は…生半可なものじゃないのよ…」


「わかってるよ…君より長く生きているんだ…君の言う地獄の恐ろしさくらいわかっているさ…」


 自分が引きこむ地獄とは生半可なものじゃないのだと言う朱里に、弓月は、わかっていると答えた後、朱里より長く生きているのだから、朱里の言う地獄の恐ろしさは十分に理解していると呟く。