愛しき罪ー9

「弓月さん。朱里ちゃん…薬飲みましたよ…」


「そうか…」


 朱里が薬を服用した事を報告して来た浜田に、弓月はそうかと小さく呟く。


担当看護師である自分に反抗的なのに、朱里が浜田には柔軟に対応する事に、弓月はなぜか苛立ちを感じていた。


「弓月さん。弓月さん…もしかして…朱里ちゃん…の事…」


「まさか…俺は…もう結婚してるんだぞ…それに…須崎さんは受け持ち患者なんだ」


 弓月もまた朱里に特別な感情を抱いているのではないかと問いかける浜田に、弓月は、自分の中で芽生えている苛立ちを隠すように、自分はもう結婚している身だし、第一、朱里はただの受け持ち患者なのだと答える。


「そういえば…朱里ちゃん…退院を申し出ているそうですよ」


「えっ?」


 浜田から朱里が主治医に退院を申し出ていると知った弓月は、担当看護師の自分が知らない現実に、ただ驚愕するばかりだった。


「いまの須崎さんを退院させるなんて無茶な話だ」


「でも、朱里ちゃんは任意入院ですからね…本人が退院したいって言ったら、退院させるほかないでしょう」


 いまの朱里の状態で退院は無茶だと言う弓月に、浜田は、朱里が本人の意思で入院する任意入院である以上、主治医は退院を許可するに違いないと声を掛ける。


「そろそろ仮眠取る時間じゃないんですか?弓月さん」


「あぁ…そうだったな…先に仮眠取らせてもらうよ」


 そろそろ仮眠を取る時間なのではないかと浜田に声を掛けられた弓月は、もうそんな時間なのだなと思いながら、先に仮眠を取らせてもらうと浜田に言い残し、仮眠室へと向かう。


仮眠なんて取れるだろうかと思いながら、弓月は仮眠室のベッドに身体を横たわらせる。