大奥恋絵巻ー18

「お妙…昨夜も…上さんに…大層可愛がられたそうだね…」


 お妙が家治に明け方近くまで解放してもらえなかった事を聞きつけた瑤子は、昨夜の疲れがまだ残っているお妙を自分の前に呼び出すと、我が事のように、お妙に声を掛ける。


「上様のご不興を買わずに済んでよかったです…」


「何を言っている…上さんが朝まで女子を離さぬというのは…今までにないことだ…」


 とにかく家治の不興を買わずに済んでよかったと呟いたお妙に、瑤子は、家治が朝まで女子を離さないというのはいままでにないことだと笑いかける。


「あのお菊の耳にも…この事は入っているだろう…お菊の地団駄踏む顔が目に浮かぶようだ…」


 お菊の方の耳にも、お妙が家治に夜明け近くまで愛されたというのは入っているだろうから、お菊の方の地団駄を踏む顔が目に浮かぶと、瑤子は笑う。


このままいけば、この大奥の権勢は自分に傾くと算段しながら。


「私は…上様のご不興を買わないようにしているだけで…」


 熾烈を極める瑤子とお菊の方の大奥の権勢争いに、お妙は、自分が、瑤子が差し出した駒に過ぎないとわかっていながらも、自分はただ家治の不興を買わぬようにしているだけだと呟く。


「それでいいのよ…上さんの不興を買ったらそれまでだからね…」


 お妙の呟きに、瑤子は、お妙はいまのままでいいと笑い、遠回しに脅しを掛けるように、家治の不興を買えば、全てが水泡に帰すと、お妙に笑いかける。


「まだ…お種を宿した兆候はないの…?」


「はい…申し訳ありません…」


 まだ、家治の種を宿した兆候はないのかと、瑤子に訊ねられたお妙は、なぜ申しわけなく思うのかわからないまま、まだ家治の種を宿せなくて申し訳ないと呟く。


お妙が家治の種を宿すかどうかが大奥での権勢を誇れる意味に繋がると瑤子は考えていた。