大奥恋絵巻ー15

「お妙…よく来てくれました…」


「御台様…」


 お妙が家治に気に入られて以来、お菊の方への牽制ができている事に満足しているような笑みを浮かべる瑤子に、お妙は恐れを感じながらも、礼に従って深く傅く。


「上さんは…そなたを…毎晩のように所望しては…明け方近くまで離さぬと聞いている…」


「御台様…」


 寝所でのねだりを禁ずるために見張りがいるのは知っていたが、その見張りから家治がどのようにお妙を愛するのか聞き及んでいる瑤子に、お妙は戸惑いを隠せなかった。


「恥ずかしがることはない…そなたはいまや…上さんのお気に入り…薦めた私も鼻が高い」


「そのような…上様のお心は…今日にも変わるものです…」


 いまや家治の寵愛を得ているのは、お妙であり、お妙を家治に薦めた自分も鼻が高いと呟く瑤子に、お妙は、家治の心など今日にも変わる不安定なものだと答える。


「謙虚ね…そういうところが…上さんが気に入ったところなのかもしれないわね…」


 家治の心などいつ変わるかわからないだろうと呟いたお妙に、瑤子は謙虚だと呟き、続けて、そういう謙虚なところが家治の心を捉えているのだろうと笑いかける。


「後は…上さんのお種を宿すだけ…そうすれば…あのお菊も強く出られないだろう…」


 お妙の戸惑いを知ってか、瑤子は、後は、お妙が家治の種を宿し、世継ぎ候補を産むだけだと声を掛け、お妙が家治の子を身ごもれば、お菊の方もお妙に強く出る事はできないだろうと呟く。


「お妙…よいですか…?この大奥は上様の歓心を得て笑うか、権勢に跪き、泣き寝入りするかのどちらかなのですよ」


「御台様…」


 この大奥は時の将軍の寵愛を得て笑うか、その権勢に跪き、泣き寝入りするかのどちらかしかないという瑤子の言葉に、お妙は、この大奥の恐ろしさを実感する。