大奥恋絵巻ー24

 それから数日たっても、家治はお妙以外の女子を所望する事はおろか、大奥に渡りさえしなかった。
 
 
毎夜の如く大奥に渡っては、お妙を所望していた家治が大奥に渡らない現実に、お妙以上に、周囲がざわめきだした。
 
 
お妙が不興を買ったに違いない…ならばなぜ他の女子を所望しないと疑惑が疑惑を呼び、大奥の女たちは、お妙に疑惑の念を送る。
 
 
「お妙様…」
 
 
 お妙を見るたびにコソコソと話す女たちの視線に、お美津は耐えられないとばかりにお妙を見る。
 
 
「言ったじゃないですか…上様のお心はいつ変わるかわからぬものだと…」
 
 
 お美津の視線と女たちの視線を感じながら、お妙は、家治の心などいつ変わるかわからないものなのだと言ったはずだと呟く。
 
 
 そこへ、お菊の方がやって来て、お妙は礼儀通りにお菊の方に道を開ける。
 
 
「聞いたわよ…上様の不興を買ったらしいわね…」
 
 
「そのようですね…」
 
 
 家治の不興を買ったらしいじゃないかと声を掛けてきたお菊の方に、お妙はそのようだと答える。
 
 
「御台の野望もこれまでという事ね…」
 
 
「不興を買ったのは私です…御台様には何の責任もありません…」
 
 
 大奥の権勢を我が物にしようと画策した瑤子の野望もこれまでかと笑うお菊の方に、お妙は家治の不興を買ったのは自分であって、瑤子に何の責任もないと呟く。
 
 
「そなたを上様に薦めたのは、御台でしょ…なら…同じこと…」
 
 
お妙の呟きに、お菊の方は、お妙を家治に薦めたのが瑤子なら、瑤子が家治の不興を買ったも同然だと答える。