女神の悪戯ー5

「すまない…君の幸せを壊すつもりはないけど…今だけ…抱き締めさせてくれ…」


 抱き締められた事に戸惑う雪菜に、由紀夫は雪菜の家庭を壊すつもりはないけれど、今だけでいいから雪菜の事を抱き締めさせて欲しいと呟く。

今だけでいいなんて嘘…できるならこのまま全てを捨てて雪菜を連れ去りたい…だが、それはできない…雪菜には雪菜の幸せがある…自分にも自分の家庭がある…それがわかっていても、由紀夫は雪菜を抱き締めた腕を離すことはできなかった。


「丸岡さん…丸岡さんは…私が好きだったんですか…?」


 由紀夫に抱き締められた事に対して戸惑いながらも、雪菜は高校時代自分に好意を持っていてくれていたのかと問いかける。憧れの人に抱き締められているという事に、雪菜は喜びを感じている自分を感じていた。雪菜とて由紀夫の家庭を壊すつもりはないが、由紀夫に抱き締められた喜びの方が勝っていた。


「あぁ…好きだった…いや…今でも君が好きだ…」


 自分のこと好きだったのかと訊ねられた由紀夫は、雪菜を抱き締めながら、高校時代好きだった…いや…今でも好きだと答える。


高校時代、触れたくてたまらなかった黒くて長い髪…嗅ぎたくてたまらなかった雪菜の香り…抱き締めた事により叶った事で、由紀夫は今までひた隠しにしてきた想いを吐露する。


「私も…丸岡さんが…好きでした…いいえ…今でも好きです…」


 由紀夫の思いがけない本音に、雪菜は自分もひた隠しにしてきた想いを吐露する。それが夫を裏切る言葉でも、雪菜は止められなかった。


「このまま連れて行ってください…丸岡さんの…望む場所に…」


 抱き締められる力を強めた由紀夫に、雪菜は由紀夫の背中に手を回すと、このまま由紀夫の望む場所へと連れて行ってくれと呟く。


「いいのか…?それがどういう事かわかっているのか…?」


 由紀夫の望む場所に自分を連れて行けと言う雪菜に、それがどういう事になるのかわかって言っているかと問いかける。


「わかっています…私も…丸岡さんを見ていただけの高校時代とは違います…自分が言っている意味くらい解ります…」


 由紀夫の問いかけに、雪菜は自分も由紀夫を遠くから見ていただけの高校時代とは違うし、自分が言っている事の意味くらい解っていると答える。


その雪菜の言葉で由紀夫をかろうじて抑えていた理性は消えた。由紀夫は潤んだ瞳で見上げてくる雪菜に口付ける。



それが自分の家庭を裏切る事、そして雪菜に家庭を裏切らせる事とわかりながらも、もう止まらなかった。


口付けが深いものになっていっても、物足りないくらいに心が雪菜を求め続ける。重なり合った二人の影は揺らめき合って二人を運命の恋へと押し流していく。