砂漠の薔薇ー34

そして…出航の日…凛子は、港にアスランの姿を探していた。


しかし、アスランの姿はおろか、見送りの人間もまばらで、凛子は、本当にアスランに見捨てられたような気がしてならなかった。


「凛子嬢…そろそろ…船に…」


 凛子の気持ちを知ってか、弘樹は、凛子にそろそろ船が出るから、船に乗り込もうと声を掛ける。


 アスランが奪い来てくれるどころか見送りにも来てくれない事に肩を落とした凛子は、弘樹に促されるまま船に乗り込む。


「リンコ」


 凛子が甲板に立って先程までいた桟橋を見た瞬間、桟橋に立つアスランの姿に、凛子は、全身の血潮が沸き立つ思いに駆られる。


その時、出航を告げる汽笛が鳴る。


「待って…私…降ります…」


 桟橋に立つアスランの姿に、もう自分を偽れないと思った凛子は、引き留める弘樹や伊集院伯爵の声を振り切り、急いで船を降りると、アスランのもとへと走る。


アスラン様」


「リンコ」


 桟橋を駆け抜け、一心不乱にアスランのもとに走り、アスランに飛びついた凛子をアスランは、想いの限りに抱き締める。


「本当にいいのか…?私のもとで暮らすという事は…二度と故郷に帰れないという事だぞ…?」


 凛子を抱き締めながら、アスランは、凛子に、自分を選ぶという事は、二度と故郷に帰れないという事になるのだから、それでもいいのかと問いかける。


 その問いかけに、凛子は、アスランの唇に自分の唇を重ねるという形で答えた。