「このまま…お帰りください…あなた方が探している凛子は…この国にはいないのです…」
弘樹の叫びに、凛子は、弘樹たちが探している凛子はこの国にはいないのだから、このまま帰るようにと告げる。
「リンコ…そなたは…この者たちと帰るのだ…」
凛子の姿を見ていたアスランは、凛子に弘樹たちとこの国を出るようにと告げる。
「アスラン様…」
手放したくない…だが…手放さなければならないという悲痛な表情を浮かべるアスランに、凛子は何も言えなくなってしまった。
その日のうちに、凛子がハレムを出る用意は整い、凛子は、弘樹と伊集院伯爵に付き添われ、数週間過ごした王宮を出ていく。
「凛子嬢…ここでの暮らしは…もう…忘れるんだ…」
港近くの宿に入り、アスランの本心がわからない表情を浮かべる凛子に、弘樹は、ここで起きた事は自分達も忘れるから、凛子も忘れるのだと呟く。
「弘樹様…」
弘樹のもう一度最初からやり直そうという言葉に、凛子は、弘樹の優しさを感じながらも、アスランを求める自分の気持ちに嘘をつくことができなかった。
「明後日…欧州行きの船が出る…そうすれば…君も…この国で起きた事は忘れる…」
以前と打って変わって自分との距離を取る凛子に、弘樹は、明後日、欧州行きの船が出るから、それに乗れば、凛子もこの国で起きた事は忘れるだろうと呟く。
その夜…アスランは荒れていた…ハレムの女人たちを目の前にしても、何もする気にならないくらいに荒れていた。
その荒れた心を何とかしようとハレムの女たちはあれこれと手を尽くすが、アスランは、それらを拒否するように、禁じられている酒を浴びるように飲み続ける。