表での政が残っているという家治の言葉に従い、庭の散策は終わったが、お妙が大奥へと帰る際に、家治は、お妙に囁いた。
今宵もそなたを所望すると。
その日の夜…順序を踏まえたお妙を寝所に所望する手続きを終えて、お妙が寝所で家治を待っていると、家治がやって来た。
家治が緊張しているように見えるのは、気のせいか。
「お妙…」
「どうしました…?」
心なしか声が震えている家治に、お妙はどうかしたのかと声を掛ける。
「わしは…何度も…そなたを抱いてきた…」
「はい…」
お妙を何度もそれこそ朝まで抱いてきたと呟く家治に、お妙ははいと頷く。
「お妙の心がわしにあるとわかった途端…そなたを抱くのが怖い…わしの想いで…そなたを壊してしまうのではないかと思うと…そなたを抱くのが怖い…」
自分を静かに、だが、きちんと目を見据えて見つめるお妙に、家治は、お妙の心が自分にあると知って嬉しい反面、自分の想いでお妙を壊すのではないかと思うと、お妙をいままでのように抱くことが怖いのだと呟く。
「上様…上様のお心のままに…」
家治の呟きに、お妙は、家治の手を握ると、家治の心のままに抱いてくれればいいのだと答える。
「お妙…」
「上様…」
お妙を横たわらせた家治は、ドキドキする心臓の音を感じながら、お妙がゆっくりと目を閉じたのが合図とばかりに、お妙の首筋に唇を落とす。