大奥恋絵巻ー16

その夜も、家治の寝所に呼ばれたのは、お妙だった。


「お妙…今宵も…震えておるな…どうしてだ…?」


 毎夜のように抱き寄せても、初めてのように震えるお妙に、家治は、どうしてそんなに震えるのかと訊ねる。


「私は…怖いのです…」


「何が…怖いというのだ…?」


 家治の腕の中に納まりながら、怖いと呟いたお妙に、家治は、何がそんな怖いのかと訊ねる。


「上様のお心次第の…この身が怖いのです…」


「わしが…そなた以外の女子に執心するというのか…?」


 家治の心次第で立場が変わってしまうこの身が怖いと呟くお妙に、家治は、自分がお妙以外の女子に執心するかもしれないと怯えているのかと訊ねるように囁きかける。


「いえっ…私は…この大奥が怖いのです…上様のお心次第で全てを傅かせるこの大奥が…」


家治の問いに、お妙は、自分がいま家治の執心を得ているというだけで周りの人間が自分に傅くこの大奥が怖いのだと呟く。


「わしの心を得ているのが怖いという女子は…そなたが初めてだ…」


 お妙の呟きに、家治は、自分の寵愛が欲しいという女子はいるけれど、寵愛を得ているのが怖いと言った女子は、お妙が初めてだと笑う。


「お妙…このわしの心を信じよ…」


 この大奥の恐ろしさに戸惑うお妙に、家治は、お妙を布団に横たわらせると、もっと自分の心を信じて欲しいと囁きながら、お妙の身体に唇を這わせ始める。


「愛い奴だ…」


 家治の愛撫に、早くも反応見せるお妙に、家治は満足げに笑うと、お妙の身体への愛撫を続ける。