その夜…家治は、蔵之介に告げた通りに、お妙を寝所に所望した。
「上様…?」
いつもとどこか違う家治の様子に、お妙は、家治にどうかしたのかと問いかける。
「佐久間蔵之介を知っておるな…?」
「えっ…?」
重い口を開くように、蔵之介の名を切り出してきた家治に、お妙は、驚きを隠せずにいた。
「そなたの許婚であった男であろう…?」
「上様…」
蔵之介はかつてお妙の許婚であったのだろうと問いかける家治に、お妙は言葉を失ったまま、家治を見る。
「わしが…何度抱いても…そなたの心は…あの若武者のもとにある…」
苦痛にも満ちた表情を浮かべながら、お妙を押し倒した家治は、いつもと違う家治の雰囲気に怯えるお妙に、自分が何度お妙を抱いても、お妙の心は蔵之介にあるのだと呟き、お妙の身体に唇を這わせ始める。
「上様…ご無体は…」
「では、なぜ、わしに心をくれぬ?そなたはもうわし以外の男に抱かれる事は許されぬ身なのだぞ?」
乱暴な真似はやめて欲しいと呟くお妙に、家治は、自分以外の男に抱かれる事はもう許されないというのに、なぜ、自分に心をくれないのかと問いかける。
「今日の上様は…おかしいです…いつもの上様ではありません…」
「そうだ。いまのわしは、そなたの心を欲してやまない一人の男だ」
今日の家治はおかしいと呟くお妙に、家治は、お妙の両手を布団に押し付けると、いまの自分は将軍である以前に、お妙の心が欲しいと思ってやまない一人の男なのだと答える。