大奥恋絵巻ー25

 お妙が家治の不興を買ったかもしれないという憶測が経ってから十日くらいした頃、久々にお鈴廊下の鈴が鳴った。


お鈴廊下の鈴が鳴るという事は、将軍のお渡りがあるという事である。
久々に鳴ったお鈴廊下の鈴に、今日は誰が所望されるか、大奥は色めき立つ。


「上様…」


「お妙…久しぶりだな…」


 その夜、家治に所望されたのは、やはりお妙だった。


「わしが来ぬ間…何を考えていた…?」


 家治は、お妙に、自分が大奥に渡らなかった間に、何を考えていたかと問いかける。


「上様のご不興を買ったのではないかと…」


 家治の問いに、お妙は、隠すことなく、家治の不興を買ったのではないかと答える。


「そうか…だが…わしが渡らなかったのは…そなたを不愉快に思ったからではない…」


 お妙の返答に、家治は、そうかと呟き、自分が大奥に渡らなかったのは、お妙を不愉快に思ったからではないと呟く。


「寧ろ…そなたを不愉快にさせてしまったのではないか…?」


「私がですか…?」


 寧ろお妙を不愉快にさせてしまったのではと呟く家治に、お妙は、どうして自分が不愉快になったと思ったかと問いかける。


「そなたの心まで欲しいと…言ったわしを…不愉快に思ったのではないか…?」


 お妙の問いに、家治は、お妙の身体だけでなく心も欲しいと言った自分を、お妙は不愉快に思ったのではないかと問いかける。


 家治は、本当はまだお妙の心が欲しい…だが、それを口にしたら、本当に心が離れていきそうで怖かったのだった。