月光花ー18

「あ、あなたは…」


 自分の家の門の前に佇んでいた人物を見てかなみは驚く。それは、ゆかりだった。


「確か…青山さん…でしたね…」


「はい…そうです…実は…お話が…」


 かなみに名前を訊ねられたゆかりは、そうだと答えた後、大切な話があると、かなみに切り出す。


「どうぞ…中へ…」


 ゆかりのこの前と違う雰囲気を感じながら、かなみは、ゆかりを家の中に招き入れる。


「いま…お茶…お出ししますね…」


 ゆかりを客間に通したかなみは、ゆかりに、いまお茶を出すと言って立ち上がる。


「昨夜、私とわたるはずっと一緒でした。この意味、あなたならわかりますよね?」


「おっしゃっている意味がよくわからないのですが…」


 いきなり、昨夜自分とわたるはずっと一緒にいた、この意味がわかるだろうと告げてきたゆかりに、かなみは、まさかと思いながらも、言っている意味がわからないと返す。


「わたるは…昨夜…私を…抱いてくれたんです…」


 かなみの返しに、ゆかりは、肝心なところを省いて、昨夜、わたるに抱かれたのだと告げる。


「それを…私に言って…どうするのですか…?」


 ゆかりの言葉に、かなみは、全身の血の気が引いていくのを感じながら、それを自分に言ってどうするのかと問いかける。


「庭に花を飾るのをやめてくれればいいんです…そしたら…いつか…わたるも…」


 かなみの問いかけに、ゆかりは、かなみが庭に花を飾る事を一切やめてくれたら、いつかわたるも、花が咲いてないかどうか確かめる事もしなくなるだろうと呟く。


「できますよね…?だって…あなたは…」


 何も言わず立ち尽くすかなみに、ゆかりは、花を飾る事をやめる事はできるだろう、だって、あなたは、社長の愛人なのだからと、かなみに詰め寄る。


「花を飾る事をやめても…彼が来ることもあります…」


 ゆかりに詰め寄られたかなみは、自分が花を飾らなくなっても、わたるが闇に紛れて逢いに来る可能性は否めないと答える。


「言いたいことはそれだけですか…?私はいまから…その社長さんを迎える準備をしないといけないのです…」


 全身が何かで焼かれているような感覚に陥りながら、かなみは、ゆかりに、言いたいことはそれだけなのかと訊ねた後、いまから自分は、その社長を迎える準備をしないといけないのだと呟く。


「じゃあ、これで帰ります。くれぐれもわかっていますよね?」


 ゆかりは、かなみに、くぎを刺すような言葉を投げ掛けた後、帰って行った。