数日後の昼下がり…この日は、日曜日で西田の来訪はない。
西田の来訪がないという事は、かなみが庭先に花を咲かせる日である。
かなみは、壺に活けた梅の花を庭先に運んでいた。
「あの…こんにちは…」
「はい…あ、あなたは…」
庭先に梅の花を運んできたその時、声を掛けてきた女性を見たかなみは、驚かずにはいられなかった。かなみに声を掛けてきたのは、わたるを密かに慕うゆかりだったからだ。
「花…飾るのですね…わたると…逢うという事ですね…」
「えっと…」
「隠さなくても…知ってます…わたるが…この庭に…花が咲く日を…待っている事…」
花を飾るという事は、わたると逢うのだなと訊ねてきたゆかりに、どう返答していいかわからない表情を浮かべるかなみに、ゆかりは、隠さなくてもわたるがかなみの家の庭先に花が咲く日を待っている事を知っていると呟く。
「確か…青山さん…でしたよね…?立ち話もなんですから…お入りください…」
ゆかりの切実な表情を感じ取ったかなみは、立ち話もなんだからと家の中へとゆかりを招き入れる。
「どうぞ…」
「すみません…いきなり…お邪魔して…」
ゆかりにお茶を差し出すかなみに、ゆかりは恐縮したように頭を下げ、いきなり訪問したことを詫びる。
「あの…今日は…お願いがあって…来たんです…」
「お願い?何でしょうか?」
ゆかりのわたるに対する感情を知っているかなみは、ゆかりの切実な表情と声に、もしかしてわたるを自由にしてほしいと言われるのではないかと思いながら、お願いとは何かと問いかける。
「もっと…庭に花を咲かせてあげてください…わたるのために…」
「青山さん…?」
ゆかりからの思いがけない言葉に、かなみは、驚きを隠せなかった。てっきり、わたるを自分にくれと言われると思っていたから、ゆかりの言葉に驚かずにはいられなかった。
「でも…私は…」
「知ってます…あなたが…社長の愛人だって事…社員全員が…」
自分はゆかりとわたるが勤める会社の社長の世話を受けている身だと言おうとしたかなみに、ゆかりは、かなみが社長の西田に連れられて会社に来た時から、かなみが社長の西田の愛人だってことは、社員全員が知っている事だと呟く。
「社員全員が…私の事…見抜いているんですね…」
ゆかりの呟きに、かなみは、隠しているつもりでも、やはり、そういう事は知られてしまうのだなと呟く。