その日の夕方…かなみは、買って来た福寿草を見つめていた。
西田から今夜は来られないという連絡があったら、すぐ庭先に飾れるように。
「ごめんください」
「はい…あ、あなたは…」
玄関から聞こえてきた声に、かなみが玄関先に行くと、そこには、ゆかりが立っていた。花を飾るなとゆかりに言われていたから、福寿草を見られるのは、気まずい気がした。
「あの…今日…花は…?」
玄関先に立ったゆかりは、今日、庭先に花を飾るのかと、かなみに訊ねる。
「まだ…わかりません…ごめんなさい…飾るなと言われたのに…」
ゆかりの問いに、かなみは、まだ飾れるかわからないと答えた後、庭先に花を飾るなと言われたのに、飾ろうとしている事をゆかりに詫びる。
「謝らないでください…今日は…あなたに…謝りたくて来たのですから…」
かなみの言葉に、ゆかりは、謝らないで欲しいと呟いた後、今日はかなみに謝りたくて来たのだと呟く。
「この間…わたるに抱かれたって言ったけど…肝心なところを…省いたんです…」
「肝心なところ…?」
家の客間に通されたゆかりは、この間、わたるに抱かれたと言ったが、肝心なところを省いて言ったのだと呟き、かなみは、肝心なところとは何かと首をかしげる。
「わたるは…あなたと…間違えて…っていうか…酒の席で…あなたを馬鹿にする言葉を聞いて…荒れるように飲んで…それで…あたしが…あなたに見えて…」
ゆかりは、かなみに、わたるが参加した飲み会で、かなみを卑下する言葉を聞いて、我を忘れるほど酒を飲んで、かなみと自分の見分けがつかなくなるほどに酔ってしまったのだと呟く。
「そうですか…でも…あなたと…」
「わたるはずっとあなたの名前を呼んでました…こっちがみじめになるくらいに…」
そうだったのかと呟いた後、しかし、抱いたのは事実だろうと呟いたかなみに、ゆかりは、わたるはずっとかなみの名前を呼んでいて、自分がみじめになるくらいにかなみの名前を呼んでいたと呟く。
「わたるの頭の中には…あなたしかいません…だから…悔しくて…あんな言い方してしまったんです…」
ゆかりは、かなみに、わたるに頭の中はかなみの事で一杯になっていて、それがちょっと悔しくて、あんな言い方をしてしまったのだと呟く。
「好きな人に…そんな間違われ方されたら…誰でもそうなりますわ…」
ひどい言い方をしてしまったと詫びるゆかりに、かなみは、酔っていたとはいえ、好きな人にそんな間違われ方をしたら、誰でもそうなってしまうと笑いかける。
かなみには、わたるが好きだからこそ辛いゆかりの気持ちがよくわかっていた。