「うっ…頭…痛い…」
翌朝、激しい頭痛と共にわたるは、目を覚ます。
隣にはなぜかゆかりがいる。しかも、裸のゆかりがいた。わたるに昨夜の記憶はない。
「(もしかして…俺…青山を…)」
裸で自分の隣に眠るゆかりを見ながら、わたるは、昨夜起きた事を整理する。飲み会で荒れて、それから、部屋に連れて帰ってもらって、それから、かなみの夢を見て、そこからの記憶はない。
「うっ…ん…わたる…起きてたの…?」
「起きてたのじゃないだろ。起きてたのじゃ」
目を覚ましたゆかりに、わたるは、この状況を見て何も思わないのかと声を掛ける。
「わたるは…あたしとそうなったんだよ…酔った上だけど…」
状況を飲み込み始めたわたるに、ゆかりは、酔って自分を抱いたのだと告げる。かなみと間違えたことは言わずに。
「でも…青山…俺は…」
「わかってるって…わたるは…あの人の事で一杯だってこと…」
こういう状況になってしまったが、自分はかなみ以外の人を愛せないと告げるわたるに、ゆかりは、わかっていると答える。
少しくらい気持ちを向けてくれたらいいのにと思いながら。
「わたる。あたし、帰るね」
ゆかりは、服を拾い上げると、戸惑いの表情を浮かべるわたるに、帰ると声を掛け、わたるの部屋を出ていく。
「(かなみさん…僕…かなみさんを…裏切ってしまいました)」
ゆかりが帰って、一人になった瞬間、事の重大さをに気付いたわたるは、自分がかなみを裏切る行為をしてしまった事を心の中でかなみに詫びる。
酔った上とはいえ、自分はゆかりを抱いてしまった。
かなみ以外の女性は抱けないって、かなみに言ったのに、酔った上とはいえ、他の女性を抱いてしまった。わたるの脳裏に、後悔と自責の念が過る。
わたるに合う花は、何だろう…?そんな事を思いながら、今日も庭に花があるかどうか確かめにやってくるわたるのために、綺麗な花を用意しようとかなみは考えていた。
それが、いまから起きる事の虫の知らせだと気付かないかなみは、嬉しそうに赤いシクラメンを抱えて家路を急ぐ。
今日、いまから、起きる出来事など知る由もなく。