「わたるさん…」
かなみは、わたるに抱き付くと、わたるに、自分から口付ける。
「かなみさん?」
かなみからいきなり口付けられたわたるは、驚いたように、かなみを見る。
「本当の事…言ってください…」
「本当の事って…何ですか…?」
本当の事を言ってほしいと呟いてきたかなみに、わたるは、本当の事とはどういう意味かと問いかける。
「私は西田の籠の鳥です…」
「わかっています…」
「私は…西田が求めれば…それに応じるのが…私の立場です…」
「わかっています…」
自分は西田の籠の鳥だと呟いたかなみに、わたるは、わかっていると呟き、西田が求めてくれば、それに応じなければならないのが自分の立場だと呟いてきたかなみに、わたるは、わかっていると呟く。
そのわたるの呟きを聞いたかなみは、立ち上がると、自ら帯に手をかけ、自ら帯を解きにかかる。
「かなみさん…どうしたのですか…?やめてください…」
いつもの情事の始まりの合図とは違うかなみの雰囲気に、わたるは、どうしたのかと問いかけ、やめるよう呟く。
しかし、かなみは、着物を脱ぎ続ける。まるで、わたるに、昨日、西田に抱かれていた痕跡を見せつけるように。
「かなみさん。やめてください」
かなみの悲愴な姿に、わたるは、もうやめてくれと叫ぶように声を掛けると、かなみを抱き締める。
「わたるさん…」
「かなみさん…何があったんですか…?」
自分の胸に顔を埋め、泣き崩れたかなみを抱き締め直したわたるは、一体何があったのかと問いかける。
「何もありません…ただ…」
「ただ…何ですか…?」
何でもない、ただ少し感情的になってしまっただけだと呟いたかなみに、わたるは、どうして感情的になってしまったのかと問いかける。
「あなたは…私に…優しすぎます…」
「かなみさん…」
わたるは自分に優しすぎると呟いたかなみを、わたるは、ただ抱き締める。