雪月花ー17

「んっ…うっ…」


「気がつきましたか…?」


 少し唸って目を覚ましたかなみに、わたるは、気がついたかと声を掛け、かなみを抱き寄せる。


「西田は…?」


「帰られました…」


 西田はどこに行ったのかと訊ねてきたかなみに、わたるは、西田は帰ったと答える。


「かなみさん…すみません…なんか…争いの道具みたいに扱って…」


 かなみを抱き締めたわたるは、かなみに、西田との争いの道具のようにかなみを扱ってすまなかったと呟く。


「いいえ…最初に仕掛けたのは…西田です…」


 争いの道具のように扱ってすまなかったと呟いたわたるに、かなみは、首を横に振ると、最初に仕掛けたのは西田なのだから気にしなくてもいいと呟く。


「私はいいけれど…これから…わたるさんが…」


「今は何も言わないでください…」


 自分はいいけれど、これから、わたるの立場が悪くなるのではと呟いたかなみに、わたるは、今は何も言わないで欲しいと呟く。


「でも…飼い殺しなんてことになったら…」


「その時は…その時です…」


 飼い殺しなんてことになったらどうするのかと問いかけるかなみに、わたるは飼い殺しになった時はなった時だと笑いかける。


 左遷や解雇は覚悟している…全てを失っても…かなみを愛さずにはいられない…かなみを愛した時から、わたるは、そういう日が来ることを覚悟していた。


「かなみさん…お願いがあるんです…」


「何ですか…?」


 かなみにお願いがあると呟いたわたるに、かなみはお願いとは何かと問いかける。


「もし…これから先…逢えなくなっても…僕を…好きでいてください…」


 お願いとは何かと問いかけてきたかなみに、わたるは、もし、これから先、逢えなくなっても、自分を好きでいて欲しいと呟く。


「はい…もちろんです…わたるさんも…そうしてくださいね…?」


 わたるの呟きに、かなみは、もちろんだと答えると、わたるも、逢えなくなっても、自分を好きでいてくださいねと問いかける。


「もちろんです…僕の目には…かなみさん以外の女性は映りませんから…」


 かなみの問いかけに、わたるは、もちろんだと答えると、自分の目にはかなみ以外の女性は映らないと呟く。


その時、視線が重なり、わたるとかなみは、どちらからともなく唇を寄せ合う。次第に口付けは深くなり、二人の影は揺らめき合って重なり合う。