雪月花ー6

 かなみは走る…闇夜に紛れて走る…逢いたくて…恋しくてたまらない人のもとへ…


「かなみさん」


 インターホンが鳴り、まさかと思いながら、ドアを開けたわたるは、ドアの前に立っていたかなみに驚く。


 昨日に続いて逢いに来てくれた事がわたるは嬉しかった。


「さぁ、早く中へ。寒かったでしょ?」


 寒さが続く夜に逢いに来てくれた事に喜びながら、わたるは、かなみを部屋の中へと招き入れる。走ってきたとわかるその姿に、わたるは、逢いたさを募らせているのは自分だけではないのだと感じる。


「ごめんなさい…こんな夜更けに…でも…」


「何も言わないでください…嬉しいんです…僕…かなみさんが…逢いに来てくれたことが…」


 夜更けに訪ねて来てごめんなさいと呟いたかなみに、わたるは、何も言わなくてもいい、かなみがこうして自分に逢いに来てくれた事が嬉しくてたまらないのだ呟く。


かなみは今日も西田と会っていたのだろう…かなみの家の庭先に花がなかったから、わたるは知っていた。なのに、また逢いに来てくれた…それだけでわたるの心は満たされていく。



「かなみさん…こんな事…訊くのは…あれですけど…やっぱり…今夜も…」


 一度乱れたとわかるかなみの髪を見ながら、わたるは、かなみに、やはり今夜も西田に抱かれた直後なのかと問いかける。


「ごめんなさい…」


「謝らないでください…昨日も言ったじゃないですか…あなたが社長に抱かれた直後でも…僕は…あなたを抱けるって…」


 西田に抱かれた痕跡を残したまま逢いに来たことを詫びるかなみに、わたるは、謝らないで欲しいと呟いた後、昨日も言ったように、自分はかなみが西田に抱かれた直後の直後でもかなみを抱けると呟く。


「かなみさん…僕は…一生…影の存在でも構いません…あなたが…僕を…好きでいてくれるなら…」


「わたるさん…」


 かなみが自分を好きでいてくれるなら、自分は一生影の存在でも構わないと呟いたわたるに、かなみは、嬉しいと思いながらも、辛さが増すこの恋をいつかわたるが手放す日がくるのではないかと思っていた。


「かなみさん…愛してます…この世界中の誰よりも…あなたを…」


 瞳を潤ませながら自分を見上げてくるかなみに、わたるは、世界中の誰よりもかなみを愛していると呟き、かなみを抱き締めると、紅も何もひかれていない唇に、自分の唇を重ねる。


それが合図だったかのように、秘密の時間が始まりを告げる。見つめ合い、吐息を混じり合わせる口付けを交わし、指先で記憶を辿り、影を重なり合わせ続ける。