「かなみさん」
かなみの家の庭に梅の花を飾ってある事を確かめたわたるは、勢いよくかなみの家の玄関を開ける。
「どうぞ…あがってください…」
「はい…」
玄関の上り口までわたるを出迎えたかなみは、わたるに、家の中にあがるよう促し、促されたわたるは、嬉しそうにかなみの家に入っていく。
「誰か…来ていたのですか…?」
卓袱台に残った湯呑みを見たわたるは、自分が来る前に誰か来ていたのかと訊ねる。
「えぇ…まぁ…」
「まさか…」
「いいえ…保険の勧誘です…」
言葉を濁すかなみに、わたるは、西田が来ていたのか問いかけ、わたるの問いかけに、かなみは、ゆかりが来ていたと言えず、保険の勧誘が来たのだと嘘を吐く。
「だめですよ…そういう人を簡単に家にあげたりしては…」
「えぇ…ごめんなさい…」
保険のセールスマンみたいな人を簡単に家にあげてはいけないと呟いたわたるに、かなみはごめんなさいと呟いた後、これからは気を付けると呟く。
「わたるさん…あの…」
「何ですか…?」
「いいえ…なんでもありません…」
何かを言いかけて、やめたかなみに、わたるは問いかけ、問いかけられたかなみは、なんでもないと首を横に振る。
「どうしたのですか…?今日のかなみさん…どこかおかしいですよ…?」
「そんな事…ありません…いつもと一緒です…」
今日のかなみはどこかおかしいけれど、どうかしたのかと問いかけてきたわたるに、かなみは、どうもしていないと答えると、いつもと一緒だとわたるに笑いかける。
かなみは、ゆかりのわたるへの想いの強さを知った。わたると自分の恋に協力するという想いの証しを知った。本当なら、わたるの隣にはゆかりが笑っているべきなのかもしれない。
なのに、自分は、それをわかっていながら、わたるを縛り付けている。わたるの幸せを考える時期に来ているのかもしれないとかなみは考えていた。
「かなみさん?」
「すいません…ぼんやりしてしまって…」
わたるに声を掛けられて我に戻ったかなみは、ぼんやりしてしまって悪かったと呟く。その姿に、わたるは、自分がここに来る前に何かあったと感じながらも、かなみが言わないのなら、自分も気付かない振りをしておこうと思っていた。