月光花ー12

「あの…無理は承知で言ってるのは…わかるのですが…」


 ゆかりは、かなみに、最優先しなければならないのは、西田であり、わたるではない事をわかっているけれど、雨の日も風の日も、かなみの家に通い、庭先に花がないか確かめているわたるを見ていられないのだと呟く。


「彼が…本当に…好きなのですね…?」


「彼は…ただの同僚にしか…思っていないみたいですが…」


 ゆかりは本当にわたるの事が好きなのだなと呟いたかなみに、ゆかりは、わたるは、自分事を仲のいい同僚にしか思っていないみたいだけれどと呟く。


「あなたの気持ち痛いほどわかるけれど…あなたと一緒の方が彼も幸せになれると…わかっているけれど…ごめんなさい…」


 かなみは、ゆかりに、ゆかりのわたるを想う気持ちは痛いほどわかるけれど、ゆかりと結ばれた方がわたるは幸せになれるとわかっているけれど、わたるを待たせるだけの恋を自分も手放せないのだと呟く。


「待たせない方法ってないのですか…?わたるの家に行くとか…」


「知らないのです…私…彼の家を…」


 わたるの家に行くとかわたるを待たせない方法はないのかと問いかけてきたゆかりに、かなみは、自分はわたるの家を知らないのだと答える。


「教えます…わたるの家…だから…」


「いいえ…彼に教えてもらってない事を…勝手に知るのは…」


 わたるの家を知らないのなら、自分がわたるの家を教えるから、わたると少しでも多く逢ってあげて欲しいと呟いてきたゆかりに、かなみは、首を横に振ると、わたるが教えてない事を勝手に知るのは、よくないと呟く。


「あなたが…わたるに逢いに行ったら…わたる喜びます…だから…」


「私と彼の関係に協力するのが…あなたの彼への想いの証し…なのですか…?」


 かなみがわたるに逢いに行ったら、わたるは喜ぶと呟いたゆかりに、かなみは、わたると自分の関係に協力するのが、ゆかりのわたるへの想いの証しなのかと問いかける。


「わたるの心は…全部…あなたに向いていると…知っているから…だから…」


 かなみの問いかけに、ゆかりは、わたるの心はすべてかなみに向いているとわかっているけれど、自分もわたるへの想いを断ち切れないから、わたるがこの恋を全うできるようにしてあげたいのだと呟く。


「私…これで…帰ります…これ…わたるの住所です…今すぐとは言いませんが…いつか行ってあげてください…わたるのために…」


「青山さん…」


 帰ると言った後、わたるの住んでいるマンションの住所を書いた紙をかなみに渡して、いますぐとは言わないが、わたるのためにいつか逢いに行ってやって欲しいと呟いたゆかりを、かなみは、何と言葉を掛けていいかわからないまま、ゆかりを見つめる。