月光花ー10

「かなみさん…」


「はい…」


 乱れた後に訪れる静かな時間…かなみは、乱れた髪を直しながら、わたるの声に応える。


「抱いてくれて…ありがとうございました…僕…嬉しいです…」


 乱れた余韻を身体に残しながら、わたるは、かなみを抱き寄せると、自分を抱いてくれてありがとうと呟く。


「あれが…抱いたに…なるのか…わかりませんが…喜んでいただけてよかったです…」


 わたるの言葉に、かなみは、あれが抱くに入るかわからないが、わたるが満足してくれたのならよかったと呟く。


「僕の上で…腰を揺らす…かなみさん…綺麗でした…」


「そんな事…言わないでください…恥ずかしくなるので…」


 自分の上で拙く腰を揺らしていたかなみが美しかったと呟いたわたるに、かなみは、恥ずかしくなるから言わないでくれと呟く。


 西田には見せない姿。わたるの前では段々大胆になっていく自分が、かなみは怖かった。


「また…一つ…かなみさんを…好きになりました…」


「私も…また一つ…あなたを…好きになりました…」


 かなみを抱き締めながら、また一つかなみを好きになったと呟いたわたるに、かなみは、自分もまた一つわたるを好きになったと呟き返す。


「わたるさん…そろそろ…帰らなくてもいいのですか…?」


「帰したいのですか…?」


「そうではなくて…同じ服じゃ…困らないのかと思って…」


「いいんです…男が二日続けて同じ服でも…誰も気に留めませんから…」


 そろそろ家に帰らなくてもいいのかと声を掛けてきたかなみに、わたるは、帰ってほしいのかと問いかけ、その問いかけに、かなみは、そうではなく、同じ服では困らないのかと呟き、その呟きを聞いたわたるは、男が同じ服を着ていても誰も気に留めないのだと答える。


「かなみさん…僕は…闇に紛れてしか…あなたに逢えない…この身を…呪った事もあるけど…かなみさんを…恨んだ事など…一度もありません…」


 かなみを抱き締め直したわたるは、かなみに、闇に紛れてしか、かなみに逢えない自分の身を呪った事もあるけれど、かなみを恨んだ事など一度たりとてないと呟く。


「わたるさん…私は…元々日陰の身です…西田の籠の鳥という…日陰の身です…だから…」


「いいえ…かなみさんは…僕にとって…光です…あなたを…抱き締めるだけで…僕の心は…満たされていくのです…」


 自分は元々西田の籠の鳥という日陰の存在だから、闇の中でしか逢えない事を嘆かないで欲しいと呟くかなみに、わたるは、首を横に振ると、かなみは自分にとって光であり、かなみを抱き締めるだけで心が満たされていくのだと呟く。


 夜明けは近いが、わたるとかなみは、束の間の逢瀬を大切にするように寄り添い続ける。