雪月花-1

 立春を過ぎたというのに、寒さが続く日々…窓の外は…季節外れの雪が降る…
 
「かなみさん…」
 
 皆川わたるは、自分の部屋の窓から外の雪を眺めながら、滅多に逢う事が許されない愛しき人の名を呼ぶ。
 
 皆川わたると綾瀬かなみは、想い合ってはいるが、かなみがわたるが勤める会社の社長の愛人という立場上、滅多に逢う事が許されていない。確かに二人だけの秘密の場所はあるが、そんなにそこへは行けない。
 
「(こんな風に…寒い夜は…あなたに…逢いたいです…)」
 
 簡単に逢う事が許されていないとわかっているが、わたるは、こんな風に人肌恋しくなるような夜はかなみに逢いたいと心の中で呟く。
 
 庭先に花がなかったから、今夜は、社長の西田が来ているのだろう。かなみが西田の籠の鳥だとわかっていながらも、わたるは、かなみに恋い焦がれ続ける。
 
 ピンポーン
 
 夜も更け始めた頃、わたるの部屋のインターホンが鳴る。
 
「(また…青山が余計な世話を焼きに来たな…)」
 
 かなみに逢いたい想いに焦がれていた時に鳴った部屋のインターホンに、わたるは、自分にあれこれと世話を焼く同僚の青山ゆかりがまた余計な世話を焼きに来たのだなと思いながら、玄関へと向かう。
 
「あ…」
 
 同僚のゆかりだと思って開けたドアの前に立っていた人間に、わたるは、驚きを隠せなかった。なんとドアの前に立っていたのは、わたるが逢いたくて恋しくてたまらなかったかなみだったからだ。
 
「かなみさん…どうして…ここに…?」
 
「夜遅くに来て…迷惑だったでしょうか…?」
 
 どうしてかなみがここにいるのかわからないわたるに、かなみは、夜遅くに来て迷惑だったかと問いかける。
 
「迷惑なんて…全然思ってないです…寧ろ…嬉しいです…どうぞ…中へ…」
 
 教えてないはずの自分の部屋に、かなみが来てくれたことに驚きながらも、迷惑だったかと問いかけるかなみに、首を横に振ったわたるは、かなみを部屋の中へと招き入れる。
 
「どうして…ここがわかったのですか…?」
 
 かなみを部屋の中へ招き入れたわたるは、信じられないとばかりに、かなみにどうして自分の部屋がわかったのかと問いかける。
 
 わたるは、かなみに、自分の部屋の住所を教えていない。教えても、どうせ来てもらえないと思っていたからだ。そのかなみが自分の部屋まで来てくれている…わたるは信じられないとばかりにかなみを見る。それに、今日、かなみの家の庭先には花はなかった。だから、今夜は、逢えないものだとわたるは思っていた。