花灯篭ー17

「僕…毎日ここへきて…庭先に花が咲く日を…待ってました…」


「えぇ…知っています…何度か見かけました…」


 毎日ここにきては、庭先に花が咲くのを待っていたと呟いたわたるに、かなみは、何度か庭先に花が咲くのを確かめているわたるを見かけたと呟く。


「よく…西田に見つかりませんでしたね…でも…あなたを想ってやまない可愛い女の子には…見つかったみたいですね…」


「青山は…ただの同僚です…それ以上もそれ以下もありません…」


「でも…向こうは…そう思っていないかもしれませんよ…?」


 よく西田に見つからなかったものだと呟いた後に、わたるを想ってやまない人には見つかったみたいだと呟いたかなみに、ゆかりはただの同僚だと呟くわたるに、かなみは向こうはただの同僚だと思っていないかもしれないと呟く。


「じゃあ…なぜ…今日は…紫陽花を飾ったのですか…?」


 かなみの呟きに、わたるは、なぜ、今日、庭先に紫陽花の切り花を飾ったのかと訊ねる。


「そうですね…私も…女なのですね…」


「えっ…?」


 自分の問いに、自分もやはり女なのだと呟いたかなみに、わたるはそれはどういう意味なのかと訊ねる。


「あの…可愛い女の子が…あなたを好きな事に気付いて…もう花を飾る事はやめた方がいいと思いましたが…庭先に花を飾れば…あなたに…逢えると…わかっているから…」


「かなみさん…」


 ゆかりがわたるを好きな事に気付いて花を庭先に飾る事をやめようと思ったが、やはり、わたるに逢いたくて、今日、紫陽花を庭先に飾ったのだと呟いたかなみに、わたるは逢えない辛さを重ねているのは自分だけじゃなかったという思いを感じる。


「待たせるだけの私より…彼女の方が…あなたを幸せにできると…わかっていても…今日…紫陽花を飾らずにはいられなかったのです…」


 待たせるだけの自分よりも、ゆかりの方がわたるを幸せにできるとわかっていながらも、今日、庭先に紫陽花を飾らずにはいられなかったと、かなみはわたるの目を見つめながら呟く。


「僕は…あなたしかいりません…周りがどんなに諦めろと言っても…あなたしか…僕は…見えないのです…」


 かなみの呟きに、わたるは、周りがどんなにこの恋がいばらの道よりも険しく辛い恋だと言っても、かなみしか見えないのだと呟く。


「かなみさん…僕は…この日を…待ち望んでいました…あなたが…庭先に花を飾ってくれる日を…」


 かなみしか見えないという自分の呟きを静かに聞くかなみに、わたるは、来る日も来る日もここにきては、かなみが庭先に花を飾ってくれる日を待ち望み続けていたと呟く。