梅雨の切れ間の五月晴れの日…この日もまた、わたるは、かなみの家の庭先に花が咲いてはしないだろうかと確かめに来ていた…。
「(今日も…咲いてないのかな…?)」
あまりに咲かない花に、少しだけ疲れを見せながら、わたるは、かなみの家の庭先を覗く。
しかし、今日は、庭先に紫陽花の切り花が置いてあった。
「(かなみさん…これって…逢ってもいいって…事ですか…?)」
壺に入った紫陽花の切り花を見たわたるは、これがかなみからの逢ってもいいという印だと思ったけれど、勇気がいまひとつ出ず、その場に立ち尽くす。
そこへ、紫陽花の切り花を片付けるためにかなみが庭先にやってきた。
「かなみさん…」
「わたるさん…なぜそこに…立っているのですか…?」
「だって…紫陽花が咲いていたから…」
紫陽花の切り花を片付けるかなみに、声を掛けたわたるは、なぜそこに立ち尽くしているのかとかなみに訊かれ、紫陽花が咲いていたけれど、本当にいいのかわからなかったと呟く。
「とにかく…中へ…人目に付きますから…」
「はい…」
立ち尽くすわたるに、かなみは、人目があるから早く中に入るよう呟き、わたるも、かなみの立場を考えて素早く家の中に入る。
「花を…庭先に置いている時は…大丈夫だと…言ったじゃ…ありませんか…」
「でも…ずっと…咲いてなかったから…信じられなくて…」
花を庭先に置いている時は、逢えるという意味があると教えたはずだと呟いたかなみに、わたるは長い間花が置かれていなかったから、本当に逢ってもいいのか信じられなかったのだと呟く。
「紫陽花を置くのは…今日が初めてではないのですよ…正確に言うと…置こうとしていたかしら…」
「いつ?」
紫陽花を庭先に置こうとしていた日があったと呟いたかなみに、わたるは、それはいつの日の事かと訊ねる。
「長雨が続いていた日です…でも…あなたは…可愛い女の子と話し込んでいたから…やめたのです…」
「あの日か…」
かなみの呟きに、その日がゆかりが後から付けてきて、かなみを諦めるべきだと言われた日だったとわかったわたるは、あの日、かなみが逢ってもいいと思ってくれていたのだと知り、嬉しかった反面寂しくなった。
自分は毎日この家の庭先に花が咲く日を待っていた。
来る日も来る日もここへきて、花が咲く日を待っていたのにと思っていた。たった一日すれ違っただけで、逢えない時間が延びてしまった事をわたるは残念でならなかった。