数日後…出勤してきたわたるは、ざわつく人だかりを目にする。
「(左遷の内示が出たか…)」
自分は社長に歯向かった身だから、左遷は覚悟していたと思いながら、わたるは、ざわつく人だかりに近付く。
「わたる。大変大変」
「わかってるよ」
わたるを見つけ、大変だとか駆け寄ってきたゆかりに、わたるはわかっていると答える。
「大変なんだよ。わたる」
「わかってるって。俺は社長に歯向かったんだからな。左遷ものだって」
「何言ってるの?わたる。社長が変わるんだよ」
「えっ?」
大変だと騒ぐゆかりに、社長に歯向かったのだから左遷は覚悟していたと呟くわたるに、ゆかりは、不思議そうに見た後、社長が交代するのだと呟き、その呟きに、わたるは驚く。
人だかりを押しのけたわたるは、内示を見て驚く。社長の西田が解任されたと書いてあったからだ。
「あの人との事…奥さんにばれたのかな…?」
「何で社長の奥さんが出てくるんだよ」
かなみの事が奥さんにばれたのかと呟いたゆかりに、どうしてかなみの事で奥さんが出てくるのかと問いかける。
「わたる…何にも知らないんだね…あの社長は婿養子だったの」
「婿養子?だったのか…?」
自分の会社の事情にあまりにも無知なわたるに、ゆかりは、ため息ひとつ吐いた後、わたるに、社長の西田は婿養子だったのだと説明し、その説明に、わたるは、そうだったのかと呟く。
「でも…自業自得だよね…会社に白昼堂々愛人連れてきたりしてたんだから…」
ゆかりは、白昼堂々愛人を会社に連れて来ていた西田の自業自得だと呟く。
「(かなみさん)」
ゆかりの呟きで、わたるは、西田が社長を解任された事で立場が危うくなったかなみが気にかかり始めていた。
「青山。俺、今日、欠勤」
「えっ?ちょっと、わたる、どこ行くの?」
突然ゆかりに、今日は欠勤すると言い残し、会社を出ていくわたるに、ゆかりは、どこに行くのかと声を掛ける。
もしかしたら、かなみは、あの家を出なくてはならないかもしれない。そうなったら、どこへ行くのか、わたるは、気が気でならなかった。
かなみが遠くに行きませんようにと祈りながら、わたるは、かなみの家へと急ぐ。