雪月花-19

 かなみの家へと急いでやってきたわたるは、かなみの家の呼び鈴を鳴らす。しかし、かなみは出てこなかった。
 
「(もう…引っ越したのかな…?)」
 
 かなみが一人で保つには大きすぎる家の前で、わたるは、西田が社長を解任されたせいで、かなみを囲えなくなって、かなみがここを出ていったのではないかという考えが過る。
 
「わたるさん…?どうしたのですか?こんな時間に」
 
「かなみさん…どこへ行っていたのですか?」
 
 こんな時間にどうしてここにいるのかとかなみに訊ねられたわたるは、かなみこそどこへ行っていたかと問いかける。
 
「私は、日舞の教室に行っていただけです」
 
日舞?あぁ…」
 
 どこに行っていたのかというわたるの問いに、かなみは、日舞の教室に行っていただけだと答え、その答えを聞いたわたるは、初めて逢った茶会で、かなみが日舞を教えていると言っていたことを思い出す。
 
「引っ越したのではと気が気ではなかったです…」
 
「どうして…私が引っ越すのですか?」
 
 引っ越したのではないかと気が気でなかったと呟いたわたるに、かなみは、どうして自分が引っ越さなくてはならないのかと問いかける。
 
「だって…社長が…」
 
「西田がどうかしましたか?」
 
 わたるの呟きに、かなみは、西田がどうかしたのかとわたるに問いかける。
 
「社長を解任されたんだ…今日…会社に内示があった…」
 
「でしょうね…」
 
「でしょうねって…かなみさん…」
 
 西田が社長を解任されたと呟いたわたるに、でしょうねと呟いたかなみに、そんなにのんきな事でいいのかと問いかける。
 
「昨日…奥様から…お話がありました…西田とは縁を切ってくれと…」
 
「そうなったら…この家には…」
 
 昨日、西田の本妻から縁を切ってくれと話があったと呟いたかなみに、わたるは、囲ってもらえなくなったらこの家にはいられないのだろうと問いかける。
 
「売るなら…話は別ですが…」
 
「売る?それって…かなみさんの持ち家ってこと…?」
 
 わたるの問いかけに、かなみは売るなら引っ越さなければならないけれど、売らない限り引っ越さないと呟き、その呟きに、わたるは、混乱する頭を整理するように、この家はかなみの持ち家なのかと問いかける。
 
 もし、そうなら、どれだけお嬢様だったのだろうかとわたるは思っていた。