花灯篭ー19

 翌日…また長雨の日がやってきた…


「おはよう。わたる」


「あぁ、おはよう」


 二度目の逢瀬同様、かなみの家から直接会社に出勤してきたわたるに、ゆかりは、いつも通りに声を掛け、わたるもいつも通り答える。


 昨日、ゆかり見ていた…いつものように定時に帰っていくわたるの後を追い、わたるがかなみと話しているところを…その先は想像できたから、帰ったけれど、きっと…わたるは…あの家で夜を過ごしたのだ…その証拠に、服装は昨日のままだし、心なしか明るい。


「わたる…昨日…いいこと…あったでしょ…?」


「別に…何もないよ…」


 自分が立てた仮説を確信に変えるために、わたるに昨日何かいいことでもあったのかと訊ねたゆかりに、わたるは別に何もないと答える。


 かなみから聞かされたゆかりの自分に対する感情…しかし…わたるは…それに応えてやることはできない…自分にはかなみ以外の異性が入り込み余地はもうないのだから。


「わたる。ちょっと手伝って」


 ゆかりは、わたるに資料室まで資料を運ぶのを手伝ってくれと声を掛ける。

これくらいの資料ひとりで運べるが、ゆかりはどうしてもわたるに言っておかなければならない事があった。


「しょうがないな…」


 ゆかりの頼みに、わたるは、重い腰を上げ、ゆかりが持っていた資料を持って、資料室へ行く。


「わたる…気を付けた方がいいよ…」


「何が?」


「あの人の事…」


 資料室に着いた途端、気を付けろと呟いてきたゆかりに、何がだと訊ねたわたるに、ゆかりは、日課のようにかなみの家に行くのは慎んだ方がいいと呟く。


「いつかばれちゃうよ…昨日だって…」


「昨日がどうかしたのか?」


 ゆかりがいつか社長に関係がばれてしまうよと呟いた後に、昨日もと言いかけたところに、わたるが昨日がどうかしたのかと問いかける。


「社長…あの家の前で…見かけた…なんか…急用ができたみたいで引き返していたけど…」


「何だって」


 ゆかりの呟きで、昨日、社長の西田がかなみの家の前まで来ていたことを知ったわたるは、もし、西田が来ていたら、秘密の関係が露呈してしまったかもしれないとゾッとしていた。


 幸い急用ができてしまったみたいだが、もし、そのまま来ていたら思うとゾッとしてしまうのを感じていた。