そして…碧の名での告訴は受け入れられ、裁判が始まる…。
この場はまず碧と雅彦との間での強姦罪を成立させる事が先決だ…碧を羞恥の場に晒す事にもなるが、碧以外の証言者など居るはずがないこの裁判に、源太は、せめて碧の勇気をもたらす希望の存在になれるよう努力しようと心に誓う。
裁判が進むにつれ、碧と雅彦の異常な夫婦関係が露わになり、傍聴席からもこれはもう成立しないはずがないという囁き声が漏れてくる。
裁判官が特に耳を傾けたのは、碧が雅彦と暮らし始めた年齢つまり雅彦によって性を仕込まれた年齢だった。
「本当に…十三歳だったのですか…?」
「はい…私と根本は…私が十三歳の頃から…一緒に住み始めました…」
滅多に裁判の流れを遮らない裁判官が、流れを止めてでも碧に訊ねた事は、本当に十三歳で性を仕込まれたのかという事で、それに碧は、毅然とした態度でそれに答える。
証言台に立つ時は、羞恥で倒れてしまいたくなるが、そばに源太がいるというだけで、碧は、この裁判を闘うのだという思いで証言台に立ち続ける。
怖い…でも…源太がいてくれる…ずっと自分に希望を与えてくれていた源太がいる…その思いだけで、碧は裁判を闘い続けていた。
長い裁判は終わりを告げ、碧と雅彦の間に強姦罪が成立した…それは、碧と雅彦の離婚への第一歩であり、源太が弁護士になるまでの苦労が報われた瞬間でもあった。
「夢を見ているみたい…」
誰にも届かなかった叫びが裁判という場で届き、碧は、夢の中にいるようだと呟く。
「夢じゃないですよ…あなたの心からの叫びが…裁判官を動かしたのですよ…」
夢を見ているようだと呟く碧に、源太は、これは夢でも何でもなく、碧の心からの叫びが、裁判官の心を動かしたのだと告げる。