白い闇ー42

 源太に手を取られ、旅立った碧を、町中で探し、これは駆け落ちだと騒ぎ始めた頃には、源太の行動は先を読んでいた。


「碧さん…これが…告訴状です…強姦罪を成立させるためには…いままでの夫婦生活を洗いざらい明かす必要があります…大丈夫ですね…?」


「えぇ…ちょっと怖い気がするけれど…根本と離婚できるなら…やるわ…」


 源太に告訴状を見せられながら、強姦罪を成立させる難しさを説かれ、それでも大丈夫かと訊ねられた碧は、少し怖い気がするが、雅彦と離婚できるならやると答える。


「でも…有能な弁護士さんがついてくれるのですもの…大丈夫よね…?」


「役に立てるよう…精一杯頑張ります…」


 碧に有能な弁護士と言われた源太は、そこまで有能ではないが、碧の役に立てるようには頑張ると答える。


「ねぇ…一つ…訊いてもいい…?」


「何でしょう?」


 碧に一つだけ訊いてもいいかと訊かれた源太は、首を傾げながら、何かと訊ねる。


「私が…いま…抱いてと言ったら…抱いてくれる…?」


「碧さん…ダメです…いまはとにかくダメです…僕を試すような事…言わないで下さい…」


 碧の言葉に、源太は首を横に振りながら、自分を試すような事を言わないで欲しいと答える。


源太とて、大人の男である…それも…恋しくてたまらなかった相手からの求めに応じたい…しかし、いま、碧を抱けば、それを衝かれる可能性がある…法を知り尽くした今だからこそ、碧を救い出せるのであって、ひと時の肉欲に負けたら、法によって引き裂かれる事を源太は知っていた。


「わかってるわよ…私も…ちょっと言ってみたかっただけ…」


 首をぶんぶん振り続ける源太に、碧は、ちょっと言ってみたかっただけだと笑う。