『もしもし…弓月です…』
「(これ…何回目かしら…?)」
携帯に残る弓月が残した留守番電話を朱里は、何回も聞いて何になるのだろうと思いながら、繰り返しその留守電の声を聞き続けていた。
「(未練…って…やつ…かしら…?)」
たった一夜の夢に浸る自分は、なんて未練がましい人間なのかと思いながら、朱里は、弓月と過ごした夜に思いを馳せる。
「(弓月さん…クビになるような事はないわよね…?)」
今回自分が巻き起こした自殺未遂騒動で、朱里は、弓月が病院をクビになるような事はないのだろうかと密かに弓月の置かれた立場を心配する。
今回は入院を免れる事はできたが、この手が二度使えるほど世の中甘くはない。
入院する時は弓月のいない病棟に入院する事になるのだろうなと覚悟を決めるしかなかった。
「(引っ越すか…でも…ここだって…やっと入れた部屋だしな…)」
弓月が知っているこの部屋から引っ越しすることを一瞬考えたが、やっと入れた部屋だからと朱里は思い直す。
「(そうよ…すべてが…リセットされるだけ…私は…弓月さんを知らなかった頃に戻ればいいのだし…弓月さんも…私を知らない頃に戻るだけの話よ…)」
途方に暮れた挙句、全てが以前の自分達にリセットされるだけの話なのだと、朱里は自分に言い聞かせる。
「(でも…本当に戻れるのかしら…?知らなかったあの頃に…ううん…戻らなければいけないの…弓月さんの存在なんて知らなかったあの頃に…)」
全てをリセットできるのかという思いに駆られた朱里は、必死に戻らなきゃと自分に言い聞かせる。