流れる車窓から見る景色…夢にまで見た弓月の車の助手席に座った朱里は、無言のまま深い闇の中をひた走る車のハンドルを握る弓月と車窓から見える景色を交互に見る。
深い闇は、どこか自分たちに寛容的な気がして、朱里は、これが本当の旅立ちとは思えずにいた。
「弓月…さん…」
深い闇と静寂の時を破るように、朱里は、弓月に声を掛ける。
「ん…?」
朱里に声を掛けられた弓月は、車のハンドルを握り直しながら、朱里の声に応える。
「本当に…後悔…しないの…ですか…?」
自分の呼びかけに反応した弓月に、朱里は、自分なんかを選んで本当に後悔しないのかと問いかける。
「しないよ…さっきも言ったけど…朱里に魅入られた時から…それは…覚悟できていた…」
朱里の後悔しないのかという問いかけに、弓月は、さっきも言ったけれど、朱里に魅入られた時から、心の奥底で覚悟はしていたのだと答える。
「朱里…何か…楽しい事を…考えよう…未来のありそうな事を…」
またいまにも泣きそうな顔で自分を見る朱里に、弓月は、これは死出の旅路などではないのだから、未来のありそうな楽しいことを考えようと呟く。
「未来…考えた事もなかったわ…」
弓月の呟きに、朱里は、一瞬考えた後、自分は未来についてなんて考えた事もなかったと呟く。
「じゃあ…これから…考えるんだ…僕たちの未来について…」
未来なんて考えた事もなかったという朱里に、弓月は、考えた事がないなら、これから自分たちの未来について考えるようにと呟く。
この地獄を乗り越えた先にある未来について考えるのだと…