由紀夫と熱い一夜を過ごし、家路に着いた雪菜は、玄関の鍵が開いている事に驚きを隠せなかった。正幸は今日の夕方まで帰らないと言っていたし、まさか泥棒かしらと思いながら、家の中にゆっくりと入っていく。
「お帰り」
「あなた」
家の中にいた人物に、雪菜は驚きを隠せなかった。今日の夕方まで帰ってこられないと言っていた正幸がリビングのソファーに座っていたからだ。
「いつ…お戻りに…?」
「昨日の最終便だよ」
いつ帰ってきたのかと訊ねる雪菜に、正幸は昨日の最終便で帰ってきたが、雪菜が留守だからこうして一晩中起きて待っていたのだと答える。
その言葉に、雪菜は心臓を抉られそうな感覚に陥る。自分が由紀夫と熱い一夜を過ごしていた時に、正幸は中々帰らぬ自分をこうして待っていたのだと。
「前に話していた茶道部の先輩の所に泊めていただいていたんです」
昨夜は何処で何をしていたと言わんばかりの正幸の視線に、雪菜は前に話していた茶道部の先輩の家に泊めてもらったのだという嘘をつく。
「その先輩は…本当に女性か…?」
「何を…言って…」
「首のところ…痣みたいのがついているぞ」
『!?』
正幸から出た言葉に、雪菜は心臓を抉り取られたような感覚に陥る。正幸は完全に気付いている。自分が正幸以外の異性と関係を持ってしまっている事を。
「雪菜…昨夜は一体誰と何処にいた?」
自分のカマに見事なまでに引っかかった雪菜に、正幸は、昨夜、一体誰と何処で何をしていたのかと追及する。
その厳しい表情に、雪菜はもう嘘はつき通せないと感じていた。それでも、由紀夫を守りたいと考えていた。
「雪菜」
「あなた。落ち着いてください…」
浮気と断言するかのように激昂する正幸を雪菜は何とか落ち着かせようとする。というのも正幸は高血圧を持っていて、あまり興奮すると血圧が上がって倒れてしまうかもしれないからだ。
「お前は私のものだ。そうだろう?雪菜」
「そうです。私はあなたのものですから」
雪菜は自分のものだと興奮する正幸を何とか落ち着けようと、雪菜は何度も自分は正幸のものだと言い続ける。