翌朝…
「パパ。ママ。起きて」
愛娘の佳奈美が疲れて起きない由紀夫と雅美を起こしに来た。
夜の夫婦生活なんてわからない小学生の佳奈美は、由紀夫と雅美があの後、夜の営みをしていたなどと予想もできず、いつまでたっても起きてこない由紀夫と雅美を起こしに来たのだ。
「ごめんね。すぐ朝ごはん作るから」
佳奈美に起こされた雅美は、佳奈美にすぐ朝ごはんを用意すると言い、起き上がり寝室を出ていく。
『一晩に二人も相手するのはさすがにしんどいなぁ…』
雅美と佳奈美が出ていった寝室に一人残された由紀夫は、昨夜の事を思い返していた。昨夜は珍しく雅美から求めてきた。
雪菜との情事で疲れていたが、拒めば雪菜との情事を見抜かれそうで応じた。雅美と交わりながらも、浮かぶのは雪菜の官能的な声だった。
『雪菜…君もご主人に抱かれたのか…?』
まだ寝室のベッドに横たわりながら、由紀夫は昨夜の情事の後、家路に着いた雪菜を案じていた。
痕は残さないようにしたつもりだが、もし残っていたらと思うとたまらなくなった。
もし、雪菜が夫に求められたら雪菜は応じるしかないだろう。その時に自分が雪菜の身体に痕を残していたら、雪菜は窮地に立たされるだろう。
『雪菜…君は…ご主人の腕の中でも…あんな風に啼くのか…?』
雪菜が夫に自分との情事の名残りを問い詰められないかと案じる一方で、由紀夫は雪菜の夫の腕の中での雪菜が自分に見せたような官能的な姿で抱かれ、啼くのかという事が気になっていた。
初恋の相手その人である雪菜の初めての男になれなかった事…そして雪菜の生涯の伴侶になれなかった事…由紀夫は雪菜を抱いてしまった事によって渦巻く想いを自分でも制御できずにいた。
その三週間後…雪菜の携帯に一通のメールが入ってきた。
【逢いたい】
たった一言だったが、送信主はわかっていた。由紀夫だと。
由紀夫のたった一言だが情熱を感じるメール文に、雪菜は由紀夫に抱かれたあの日以来、燻っていた熱が蘇るのを感じていた。
しかし、自分はいま出張で遠方に居る。最終便に間に合えばいいが、それはわからない。第一、これ以上正幸を欺ききれない。
あの夜以来、正幸は毎晩のように求めてきては、自分を置いてどこへも行かないでくれと言い続ける。その度に雪菜はどこへも行かないと答え続けていた。
だから、由紀夫からのメールに戸惑ってしまうのである。 雪菜も由紀夫に逢いたい…逢いたいが、出張で遠方に居る事と正幸をこれ以上欺ききれない事に、雪菜は揺れ動いていた。結局、その日は出張で遠方に居るから逢えないという内容のメールを由紀夫に返した。