朝が来て、アスランは、名残惜しそうに凛子から離れると、サルタンの執務へと向かう。
これは愛の行為ではない…凌辱だと…どんなにアスランが愛の言葉を囁こうが、自分の前に高価な絹や宝石を積み上げようが、決して受け入れられる事ではないと凛子は思っていた。
その姿に、身の回りの世話をしに来た侍女は、部屋に入る事ができず、そのまま部屋の前から立ち去っていく。
サルタンが東洋の娘に執心したという話は、ハレム中を駆け巡り、アスランの寵愛を我が物にしたい女たちは、部屋の外から忌々しげに凛子を見つめる。
自分達とは肌色も毛色も違う凛子がなぜアスランの執心を得たのかがわからないとばかりに凛子を見る。
そんな視線にも気付かない凛子は、また今夜にもやって来そうなアスランに怯える。
その日、アスランから、凛子に、たくさんの絹と宝石が贈られたが、凛子はそれを運んできた宦官を追い返す。
「本当に…突き返すとは…リンコ…なぜ…私を受け入れない…?」
あれだけの絹や宝石を自分から贈られれば、ハレムの女たちは喜び、自分に傅き、自分の足元に侍る…なのに、凛子は、それらを突き返して、自分の想いを受け入れてはくれない。
「もう一度贈れ…いやっ…受け取るまで…毎日贈り続けろ…」
アスランは、贈り物を持て余す宦官に、凛子が受け取るまで、毎日贈り続けろと告げる。
そのアスランの言葉に、宦官は深く頭を下げると、もう一度贈り物を持って、凛子のもとへと向かう。