それからどれだけの時間が経ったのだろう…凛子は、海賊たちに何をされるかわからない恐怖と闘っていた。
人質とはいえ、貞操を奪われるかもしれない可能性はあるわけで、こんな事を婚約者の弘樹が知ったら、即婚約を解消されてしまう。
しかし、父の伊集院伯爵が言っていたように、伯爵令嬢としての誇りは失わないようにしようと決めていた。
やがて船は、どこかの港に着いたらしく、海賊の一人が凛子に船を降りるよう促す。
促されるまま船を降りた凛子は、美しい街並みに心を奪われる。
「私は…どこへ…連れて行かれるのですか…?」
凛子は、海賊の長と思われる男に、もしものために覚えていた片言のアラビア語でどこへ連れて行かれるのかと訊ねる。
「この国の言葉がわかるのか?まずはサルタンに挨拶だ」
凛子に訊ねられた海賊の長は、凛子がアラビア語を話せることに驚きながらも、凛子に、この国の王であるサルタンに挨拶するのだと答える。
「サルタン…?」
「そうだ…気に入られれば…豪勢な生活ができるぞ…」
この国の王であるサルタンに会うのかと呟く凛子に、海賊の長は、サルタンに気に入られれば、豪勢な生活ができると笑いかける。
「もし…気に入られなければ…?」
「それは…知らない方がいい…」
もしサルタンに気に入られなければどうなるのかと訊ねる凛子に、海賊の長は、それは知らない方がいいと笑う。
サルタンがいるという王宮に向かう途中に、凛子は、奴隷市場を見かけた。
自分とさほど歳が変わらない女性たちが売り買いされている姿に寒気を覚えていた。